原材料費、電気代、配送料、事務用品——ここ数年、あらゆるコストが上昇しています。多くの企業が販売価格への転嫁を模索する一方、自社の「買い方」そのものを見直している会社は多くありません。
特に手つかずになりやすいのが間接材です。製品の材料そのものではないが、事業運営に必要な物品やサービス——事務用品、パソコン、通信費、清掃、警備、印刷、備品のリース、ソフトウェアのライセンス。これらは1件あたりの金額が小さいため、決裁も現場任せになりがちです。
しかし積み上げると、中小企業でも年間数千万円規模になります。しかも購入先や単価が長年見直されていないケースが大半です。本記事では、間接材購買を見える化し、固定費を1割規模で削減するための具体的な進め方を解説します。
なぜ間接材購買は放置されるのか
「小さいから」見過ごされる
間接材の特徴は、1件あたりの金額が小さいことです。5,000円の事務用品の発注に、誰も原価分析を行いません。しかし年間で見れば、それが数百件積み上がります。
| 費目 | 月額の例 | 年額 |
|---|---|---|
| 事務用品・消耗品 | 8万円 | 96万円 |
| 通信費(固定・携帯・回線) | 25万円 | 300万円 |
| 複合機リース・印刷費 | 12万円 | 144万円 |
| 清掃・警備・設備保守 | 18万円 | 216万円 |
| ソフトウェアライセンス | 22万円 | 264万円 |
| 車両関連(リース・保険・燃料) | 30万円 | 360万円 |
| 合計 | 115万円 | 1,380万円 |
社員50名規模でも、間接材の総額は年間1,000万円を超えることが珍しくありません。この1割を削減できれば、年間100万円以上の利益改善になります。
担当が分散している
間接材の購買は、費目ごとに担当がバラバラです。事務用品は総務、通信は情報システム、車両は営業部——というように分散していると、全体像を把握している人が社内に存在しません。
その結果、同じベンダーから複数部署が別々の条件で購入している、というような非効率が放置されます。
「切り替えが面倒」という心理
購買先を変えるには、相見積もりの取得、社内調整、切り替え作業が必要です。担当者にとっては、現状維持のほうが圧倒的に楽です。
しかも間接材の削減は、成功しても目立ちません。売上を上げた人は評価されますが、コピー用紙の単価を下げた人が表彰されることはまずないでしょう。この構造が、見直しを遠ざけています。
ステップ1:間接材の全体像を可視化する
支出をベンダー別に集計する
最初にやるべきは、何にいくら払っているかを1枚の表にすることです。会計ソフトから直近12ヶ月の支払データを出力し、支払先(ベンダー)別に集計します。
| ベンダー名 | 費目 | 年間支払額 | 契約形態 | 担当部署 | 最終見直し |
|---|---|---|---|---|---|
| A事務機 | 複合機リース・保守 | 144万円 | 5年リース | 総務 | 2021年 |
| B通信 | 携帯電話 | 168万円 | 台数課金 | 総務 | 2019年 |
| Cサプライ | 事務用品 | 96万円 | 都度発注 | 各部署 | 未実施 |
| Dソフト | 業務システム | 240万円 | 年間ライセンス | 情シス | 2024年 |
この表を作るだけで、多くの発見があります。特に「最終見直し」の列は重要です。5年以上見直していない契約は、市場価格から乖離している可能性が高いためです。
パレート分析で優先順位をつける
支出額の大きい順に並べると、上位20%のベンダーで支出全体の80%程度を占めることが一般的です。まずはこの上位に集中します。
年間1万円の消耗品を値切るより、年間240万円のシステム契約を10%下げるほうが、はるかに大きな効果があります。
「見えない支出」を探す
会計データに現れにくい支出もあります。次を意識して確認してください。
- クレジットカード決済のサブスクリプション:各部署が個別に契約しているSaaS
- 自動更新されている保守契約:使っていない機器の保守
- 休眠アカウント:退職者分のライセンスが残っている
- 重複契約:似た機能のツールを部署ごとに契約している
特にソフトウェアライセンスは、実際の利用者数と契約数が乖離しているケースが多く見られます。
ステップ2:削減余地の大きい費目から着手する
費目別の削減アプローチ
間接材は費目によって有効な手段が異なります。
| 費目 | 主な削減手段 | 削減余地の目安 |
|---|---|---|
| 通信費 | プラン見直し、不要回線の解約、キャリア再交渉 | 10〜30% |
| 複合機・印刷 | カウンター単価交渉、印刷枚数の削減、機種のダウングレード | 15〜30% |
| ソフトウェアライセンス | 利用実態に基づく契約数の見直し、重複ツールの統合 | 10〜40% |
| 事務用品・消耗品 | 発注先の集約、購買サイトの一本化、規格品への統一 | 5〜15% |
| 電力 | 契約プラン・契約電力の見直し | 5〜15% |
| 車両 | 保有台数の見直し、リース条件の再交渉 | 10〜20% |
| 保守・清掃・警備 | 仕様の見直し(頻度・範囲)、相見積もり | 10〜25% |
「単価」より「量」と「仕様」を疑う
コスト削減というと単価交渉を思い浮かべがちですが、実際に効果が大きいのはそもそも必要かという問いです。
- 複合機:カラー印刷の単価を下げるより、カラー印刷そのものを減らす
- 通信:1回線あたりの料金より、使われていない回線がないかを確認する
- 清掃:単価より、週5回の清掃が本当に必要かを検討する
- ライセンス:割引率より、実際に使っている人数を確認する
仕様や数量の見直しは、単価交渉より効果が大きく、しかも取引先との関係を損ないません。
利用実態を測る
「必要かどうか」を判断するには、利用データが必要です。
- ソフトウェア:管理画面で過去90日間のログイン実績を確認する
- 複合機:カウンター情報から部署別・カラー/モノクロ別の印刷枚数を出す
- 携帯電話:通話・データ使用量の実績を確認する
- 車両:運行記録から稼働率を算出する
データがあれば、社内の説得も容易になります。「使っていないから解約」は、感覚ではなく事実で示すべきです。
ステップ3:購買プロセスを整える
発注先を集約する
同じカテゴリの物品を複数のベンダーから購入している場合、集約することでボリュームディスカウントが期待できます。
ただし1社に完全依存すると、価格交渉力を失い、供給リスクも高まります。主要なカテゴリでは2社体制を維持し、定期的に条件を比較する形が安全です。
購買ルートを一本化する
各部署が自由に発注している状態では、単価も購入先も統制できません。次のような仕組みを整えます。
| 項目 | 整備内容 |
|---|---|
| 購買サイトの一本化 | 事務用品などは指定の購買サイトからのみ発注 |
| 標準品リストの作成 | 「ボールペンはこの型番」など、選択肢を絞る |
| 承認基準の設定 | 金額に応じた決裁ルート(例:3万円以上は部門長承認) |
| 発注記録の一元化 | 誰が何をいつ発注したかを記録 |
標準品リストは、コスト削減だけでなく発注時の判断負荷も減らします。「どれを買えばいいか」で悩む時間がなくなるためです。
相見積もりのルールを決める
一定金額以上の購買については、相見積もりを必須とします。
- 年間50万円以上の契約は3社以上から見積もりを取得する
- 3年以上継続している契約は、更新時に必ず相見積もりを取る
- 見積依頼時の仕様書は統一フォーマットを使う
3点目が意外に重要です。仕様が曖昧なまま見積もりを取ると、各社の提案内容がバラバラになり、比較できません。
ステップ4:交渉と切り替えを実行する
交渉の前に準備すること
価格交渉に臨む前に、次を用意します。
- 現在の契約内容(単価・数量・契約期間・解約条件)の整理
- 他社からの見積もり(比較材料)
- 自社の利用実態データ
- 求める条件の優先順位(価格・納期・サポートのどれを重視するか)
特に他社見積もりの有無で、交渉の結果は大きく変わります。既存ベンダーも、失注リスクが具体的に見えて初めて条件を見直します。
交渉は「関係を切らない」前提で
長年の取引先に対して、いきなり「他社が安いので切り替えます」と伝えるのは得策ではありません。次のような伝え方が現実的です。
「継続してお願いしたいと考えていますが、コスト見直しの方針が出ており、他社との比較を行う必要があります。現在の条件で見直せる余地はありますでしょうか」
多くの場合、既存ベンダーは条件を見直します。切り替えのコスト(切り替え作業・関係構築のやり直し)を考えれば、既存先に条件改善してもらうほうが合理的なケースも多いのです。
切り替えのコストも計算に入れる
年間10万円安くなっても、切り替えに20時間かかり、業務が2週間混乱するなら、初年度の実質的な効果は限定的です。
| 検討項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 切り替え作業の工数 | 設定変更、データ移行、教育 |
| 業務への影響 | 一時的な混乱、慣れるまでの生産性低下 |
| 解約違約金 | 既存契約の中途解約条件 |
| 初期費用 | 新規契約の導入費用 |
これらを含めた3年間の総コストで比較すると、判断を誤りにくくなります。
ステップ5:継続的な仕組みにする
年1回の棚卸しを定例化する
コスト削減を一度きりのプロジェクトで終わらせると、3年後には元の状態に戻ります。年1回、決算期の前などに次を実施します。
- 全ベンダーの年間支払額を再集計する
- 3年以上見直していない契約をリストアップする
- ソフトウェアの利用実態(ログイン実績)を確認する
- 前年の削減施策の効果を検証する
契約の更新期限を管理する
多くの間接材契約には自動更新条項があります。更新期限を管理していないと、見直しの機会そのものを失います。
契約台帳を作成し、更新期限の3〜6ヶ月前にアラートが出る仕組みを整えてください。この管理があるかどうかで、交渉のタイミングを確保できるかが決まります。
現場に削減インセンティブを持たせる
削減した金額の一部を、その部署の予算として使えるようにする——といった仕組みがあると、現場が主体的に削減を考えるようになります。
削減額がすべて会社に吸い上げられる制度では、現場が協力する理由がありません。
導入事例:社員65名の製造業が年間420万円を削減
ある金属加工メーカーでは、原材料費の高騰により利益率が悪化していました。販売価格への転嫁交渉と並行して、間接材の見直しに着手しました。
まず、直近12ヶ月の支払データをベンダー別に集計したところ、間接材の年間総額は約2,900万円と判明しました。上位15社で全体の82%を占めていました。
同社が実施したのは次の4点です。
| 施策 | 内容 | 年間削減額 |
|---|---|---|
| ソフトウェアの棚卸し | ログイン実績のないライセンス38件を解約、重複ツール2種を統合 | 156万円 |
| 通信契約の見直し | 使用実績の少ない携帯回線12本を解約、プランを実績に合わせて変更 | 84万円 |
| 複合機の再契約 | 印刷枚数の実績をもとに機種をダウングレード、カウンター単価を再交渉 | 62万円 |
| 事務用品の購買集約 | 3社から1社に集約し、標準品リストを整備 | 38万円 |
| 清掃・警備の仕様見直し | 清掃頻度を週5回から週3回に変更 | 80万円 |
合計で年間420万円の削減を実現しました。削減率は約14%です。
同社の管理部長は「一番効いたのは、使っていないソフトウェアの解約だった。誰も全体を見ていなかったので、退職者のアカウントが何年も残っていた」と述べています。
実行チェックリスト
- 会計ソフトから直近12ヶ月の支払データを出力した
- ベンダー別・費目別に年間支払額を集計した
- 支払額の大きい上位20%のベンダーを特定した
- 各契約の「最終見直し時期」を記入した
- クレジットカード決済のサブスクリプションを洗い出した
- ソフトウェアの過去90日間のログイン実績を確認した
- 退職者分のアカウント・ライセンスが残っていないか確認した
- 複合機のカウンター情報から部署別の印刷枚数を集計した
- 「単価」より先に「数量」と「仕様」の見直し余地を検討した
- 年間50万円以上の契約について相見積もりのルールを決めた
- 切り替えコスト(工数・違約金・初期費用)を含めて3年総額で比較した
- 契約更新期限の台帳を作り、3〜6ヶ月前のアラートを設定した
- 年1回の棚卸しを定例業務に組み込んだ
よくある質問(FAQ)
Q1:取引先との関係を悪化させずに交渉するには?
「他社が安い」ではなく「社内でコスト見直しの方針が出た」という会社としての事情を前面に出すと、担当者個人への攻撃になりません。また、価格以外の条件(納期の柔軟性、支払サイトなど)も含めて交渉すると、双方に利のある着地点が見つかりやすくなります。
Q2:削減の担当者を置く余裕がありません。
専任者は不要です。総務・経理の担当者が年1回、2〜3日かけて集計と分析を行うところから始めてください。最初の集計さえできれば、削減余地の大きい費目は自ずと見えてきます。
Q3:安いベンダーに切り替えて品質が落ちないか心配です。
品質要件を明文化してから相見積もりを取ることで、この不安は解消できます。「清掃であれば週何回、どの範囲を、どの水準で」という仕様を先に決め、それを満たす前提で価格を比較してください。仕様なしの価格比較は、品質低下を招きます。
Q4:削減できた分は何に使うべきですか?
一部を現場に還元する仕組みを推奨します。削減額の一定割合を部署の裁量予算とすると、翌年以降も現場が主体的に削減を提案するようになります。全額を利益として吸い上げると、削減活動は一度きりで終わりがちです。
まとめ:「買い方」の見直しは最も確実な利益改善策
売上を上げるには顧客の判断が必要ですが、コストの見直しは自社の判断だけで実行できます。最後に本記事の要点を整理します。
- 間接材は社員50名規模でも年間1,000万円を超える。1割削減で100万円以上の利益改善
- まず直近12ヶ月の支払データをベンダー別に集計し、1枚の表にする
- 上位20%のベンダーが支出の80%を占める。ここに集中する
- 単価交渉より「数量」と「仕様」の見直しのほうが効果が大きい
- 判断には利用実態のデータ(ログイン実績、印刷枚数、稼働率)が不可欠
- 発注先の集約、標準品リスト、相見積もりルールで購買プロセスを整える
- 切り替えは3年間の総コストで判断する。工数と違約金も計算に入れる
- 年1回の棚卸しと契約更新期限の管理で、継続的な仕組みにする
まずは会計ソフトから支払先の一覧を出力してみてください。「これは何の支払いだろう」という項目が1つでも見つかれば、そこが最初の削減候補です。
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